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[Go-Phish 武田栄さん]
「釣りと漁村文化フォーラム」への参加をきっかけに、一緒に釣りに出かけたり、魚やワカメのお裾分けをもらったりと、個人的にも漁師との親交がどんどん深まっていったという武田さん。
そんな中で漁師の暮らしに触れ、彼らに対する尊敬の思いもまた、大きくなっていったそうだ。
漁師の生き方に学ぶ
“漁師さんはすごいなぁって一番思うのは、月の満ち欠け、いわゆる旧暦を基準に生活してはること。潮の満ち引きの目安にすることはもちろん、昔ながらの季節感であったり、餅つきや神社へのお参りなどの季節に伴う祭り事を、今も大切に守ってはるんですよね。”
旧暦とは、月の満ち欠けをひと月と考える太陰暦のことで、明治時代の始めまで、日本の国暦として使われていたもの。新年が現在の立春の頃に始まり、新暦よりほぼ1ヵ月、すべての時期が遅れることから、季節と密接につながっているといわれ、現在も、この旧暦を活用している漁業関係者は多い。
“普通に生活していると、月初めには何をせなあかんとか、月という時間に追われた考え方になってしまうでしょ。けど、漁師さんは、月を自然のサイクルとして迎え入れてはる。そんな人間らしい生き方に憧れるんです。”
漁港でのマナーについて考えてほしい
「釣りと漁村文化フォーラム」では、漁港で起きているさまざまな問題についても話題にのぼることがある。
漁港内でのバーベキュー行為や、ビンや缶、ゴミなどの不法投棄、さらには、網などの漁具へのいたずらなど…。
関係者以外の人たちが漁港に出入りすることを、漁業発展のために、おおらかな気持ちで受け容れようとしている漁師たちにとって、そんな迷惑行為への対応策を見いだすことはとても難しいのだという。
また、釣りに来た人の中にも、夜、漁船の前で焚き火をする人などがいて、同じ釣り人として、武田さんも心を痛めているそうだ。
“ようやく手に入れた休みの日に、張り切って釣りに来る気持ちは分かるんです。でもね、漁師さんにとって船は大切な財産。自分の家の前で焚き火をされるようなものやから、誰だって怒りたくなりますよね。それに夜は暗くて分かれへんやろうけど、周辺にはいっぱい民家があって、みんな寝てはったりするんですよ。
せやから釣り人には、「静かに来て、こっそりと魚を釣って帰りましょう」って言いたい。上手い釣り人は、絶対に形跡を残さないもんですよ(笑)。あと、漁師さんに会った時にはちゃんと挨拶をしてほしいですね。”
美しい海が広がり、漁師など地元の人たちが懐広く迎えてくれる南大阪湾(※2)は、大阪という都市の中で奇跡的に残された場所。この恵まれた環境を維持していくためにも、釣り人のみならず、訪れる人みんなが改めてマナーを見直す事が必要なのではないだろうか。
釣り人の視点で考える これからの海の守り方
大阪湾をテーマに取材を続けている中で、避けては通れないのが、海の魚が減少しているという話。多くの漁師と交流する中で、しばしば会話にも出てくるであろうこの問題について、武田さんはどのように考えているのか、最後に聞いてみた。
“すごく残念なことですが、魚が減っていることは、もう止められない事実ですよね。もちろん、水質改善とかの環境問題は、取り組んでいかなあかん事やけど、頑張っても、結果が出るのは3世代後ぐらいの話になってしまう。漁師さんはそれを分かってはるから、漁ができる時間や、獲ってもいい魚のサイズを自主規制したり、魚の再放流に取り組んではるんですね。
せやから、僕自身としては、釣りに関しても、釣った魚は何匹までしか持ち帰ったらあかんとか、キャッチ&リリースエリアを設定するとか、それぐらい何か特別なことが出来たらいいのになぁと思ってます。
もちろん、そんなルールを作ることは難しいし、釣った魚を持ち帰って、おいしく食べたいって言う人も多いやろうけど、僕たち釣り人は、それぐらいの意識を持った上で釣りを楽しまなあきませんよね。”
釣り人に対しても、漁師に対しても、温かなまなざしを向け、海の素晴らしさを共有していきたいと願っている武田さん。彼は今夜もまた、南大阪湾のどこかにふらりと出かけて、静かに「日常の釣り」を楽しんでいることだろう。
※1 〈写真提供〉Go-Phish 武田栄
※2 大阪湾内の泉佐野市・泉南市・阪南市・岬町にかけての湾岸エリアを示す愛称。
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