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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

岸和田の魚を全国へ
都会の漁師たちの挑戦

2015.10.14

最寄り駅:南海本線 蛸地蔵駅

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南海本線「蛸地蔵駅」から徒歩でおよそ20分。近代的なデザインの文化施設「浪切ホール」や、シネマコンプレックスを併設した大型商業施設が並ぶ海沿いには、3つの漁協が拠点を置く岸和田漁港(地蔵浜)がある。

この岸和田漁港は、大阪府内でも、群を抜く漁獲高を誇る漁港だ。農林水産省の調査によると、平成25年の大阪府での漁獲量は17,919トン。その中で、およそ75パーセントにもあたる13,569トンが、岸和田漁港で水揚げされているのである。

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そして、今回紹介する大阪府鰮巾着網(いわしきんちゃくあみ)漁協は、そんな岸和田漁港のすべての漁獲量のおよそ80パーセントを占めており、私たちが思い描くのどかな雰囲気の漁業とは明らかに一線を画す、大規模な組織で運営されている。

大阪の漁業の発展を担うといっても過言ではないこの漁協では、どんな風に漁が行われているのだろう。また、どのような取り組みで成長してきたのだろう。
同漁協の組合長、岡 修(おか おさむ)さん(65歳)に話を伺いながら、その裏側に迫ってみることにした。

1年の漁の始まりは イカナゴ漁から

毎年の2月下旬、春の訪れを告げるといわれるイカナゴの新仔(シンコ=稚魚)漁が解禁を迎える。

それまでの冬の間はシケが多い時期であり、漁を控えて船や網の整備に力を注いでいた鰮巾着網漁協の漁師にとっても、このイカナゴ漁が1年の漁の始まりだ。解禁日が訪れると漁師たちは気持ちも新たに、1年間の豊漁や安全を願いながら、意気揚揚と海へと向かうのである。
そしてイカナゴの乱獲を防ぐため、4月下旬からはイワシの稚魚であるシラス漁へと移行。シラス漁は12月の中頃まで続けられるそうだ。

では、イカナゴやシラスの漁はどのようにして行われるのだろう?
大阪湾ではおよそ40年前から、これらの小魚群の捕獲については、船びき網(ふなびきあみ)漁が用いられている。

船びき網漁法

船びき網漁は、1隻の運搬船と2隻の網船の3隻がチームになって行う漁法で、まずは運搬船が、魚が集まるポイントへ網舟を誘導する。そして2隻の網船が魚群を抱え込むように投網。平行に並んでゆっくりと網を引き、網の最後尾に取り付けられた、蚊帳の様に目の細かい袋網(ふくろあみ)に魚を集めて、運搬船へと引き揚げるのである。
イカナゴやシラスは、小さいがゆえに生命力も弱い。運搬船は、獲れた魚をいち早く流通させるため、大漁の時には1日に何度も漁場と港を往復するという。

ちなみに大阪では、2隻の船が一体になって引く網の形状がパッチ(ももひきの一種)に似ていることから、パッチ網漁とも呼ばれているそうだ。

大船団で行う 巾着網漁

 “大阪湾は昭和30年代頃まで、堺から泉南の方までずっと砂浜が続いててな、その頃はこの泉州一帯には煮干しの加工屋さんがいっぱいあって、砂浜にはずらっとイワシが干してあってん。漁師は加工屋さんに売る片口イワシを獲るのがメインで、巾着網漁はそのためのものやったんや。”

漁協の名前にもなっている巾着網漁は、イワシやサバ、アジなど、集まって群れをつくる習性の強い魚を獲るための漁法で、一般的には巻き網漁とも言われている。

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鰮巾着網漁協では、前に述べた船びき網漁と巾着網漁を、シラスが多い時、イワシが多い時など、海での魚の出具合によって変えながら行っている。
巾着網漁は、大阪湾では大正時代から続く漁法だ。しかし、現在行っている漁協は全国的にみても少ないそうで、その理由はこの漁の特色にある。

この漁法は、色見船(いろみぶね)と呼ばれる魚群を探す船が1隻、海中に網を入れる網船が2隻、そして獲った魚を港に届ける運搬船(通称 ジャコ船)が2隻という大船団で操業される。
そのため、色見船に乗って漁を取り仕切る親方は、船団の船に乗る漁師をおよそ20名近く年間雇用しなくてはならず、雇用の厳しい漁協では、巾着網漁から撤退するところも増えていったのだという。

巾着網漁法

具体的にはどのように漁が行われるかというと、まず、魚群を発見した色見船から無線で連絡が入り、網船が現場に急行する。そして、長さが1,000メートルもあるという巨大な網を2隻で左右から広げ、魚群を囲み込む。その後、巾着のように網の裾を絞っていき、魚の逃げ道を遮断。最後に網をたぐり寄せ、獲った魚を2隻の運搬船にフィッシュポンプで移し、港へ運んで水揚げするのである。

この巾着網漁は、ポイントを変えながら、多い時では1日に10回も網を入れるという。現在は魚群探知機によって魚群を見つけやすくなったとはいえ、大漁となるか否かは親方の采配に大きく関わっている。船団をまとめる親方には、相当な漁の経験と漁師たちからの信頼が必要なのだ。

また、大量の魚が捕獲できる巾着網漁では、一度の網入れで、多い時には20トン〜30トンもの魚が揚がるという。さらに、獲った魚を高値で取引するためには、魚の鮮度を保たなければならない。
そのため、網を揚げるごとに、魚を傷つけることなく急いで港へ届けなくてはならず、この漁でも運搬船は欠かせないのである。

水産会社のような組織を持つ 大阪府鰮巾着網漁協

多くの漁協が巾着網漁から撤退する中、この漁協には巾着網漁を行う船団が5つもある。これは、全国的にみても稀なことだという。

また今年の9月には、26年ぶりに、新たに2隻の網船を造船。漁業関係者が続々と集まり、大漁旗で華やかに飾られた新船のお披露目式が賑やかに行われたほどで、ここでの巾着網漁は勢いを増すばかりだ。

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 “うちの漁協は、水産会社みたいな組織で成り立ってるからね。5船団それぞれが、冷蔵施設や冷凍施設、それにシラスの加工所なんかを持ってて、中には実際に株式会社にしてる船団もある。せやから、巾着網漁を続けていくだけの基礎体力がしっかりとできてるねん。”

そう教えてくれた岡さんが、漁港内にある、まるで工場のように大きな冷凍施設を案内してくれた。
およそ20年前に設立されたという冷凍施設のすぐ前は、漁船の到着場。船が海から帰ってくると、獲れた魚はすぐさま大きなポンプで吸い上げられ、施設へと届けられるのだ。

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届けられた魚は、人の手によってイワシ、アジ、スズキなど魚種ごとに冷凍型に並べられる。そしてベルトコンベアで運ばれた後、マイナス30℃に設定された凍結室へフォークリフトで運ばれるのである。
こうして冷凍された魚は、次に保管のための冷凍倉庫へと移動される。この施設には、20トンもの魚を保存することのできる倉庫が、なんと5室も用意されているのである。
さらに、漁で撒き餌として使う小さなイワシも、大量に獲れた時にはここでまとめて冷凍保存しているのだという。

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 “こういう施設があることで、不漁の時も安定した収入が見込めるようになったんやね。船団の漁師さんには毎月きちんと給料が渡せるから、漁師になりたいって言うてやって来る若い人も多いしな。それに、漁師さんだけやなく、陸でもいろんな作業に関わる人が雇えるようになったんや。”

多くの漁協が漁師の後継者不足の問題を抱える中、鰮巾着網漁協では、110人の組合員中、およそ40〜50人の漁師が20代までの若者だという。
さらに組合員のほかにも、陸上の施設でさまざまな作業に携わっている従業員が150人以上いるそうだ。

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この組織のあり方と、ここで働く多くの人たちの力が、大阪湾の中でも群を抜く漁獲高を実現している。まさに、ひとつの企業のような漁協が大阪に存在することに、改めて驚かされてしまった。

魚の流通革命をめざして

 “大阪湾にはようさん川が流れ込んできてるから、魚が育つためのエサが豊富やねん。せやから、獲れる魚は脂がのってて、ほんまにおいしいよ。特に大阪で獲れるイワシは、東京の築地で魚を仕入れてる寿司屋さんや料亭の板前さんかて「大阪でこんなに美味い魚が獲れるのか」って、びっくりするぐらいなんやで。”

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東京では、ほとんどのイワシが築地で取引されており、そのイワシを買っていくのは高級料理店だそうだ。鰮巾着網漁協では、そんな東京の流通事情に着目。東京周辺の大衆飲食店などに、仲買人を通して岸和田から新鮮なイワシを届ける事業も行っている。
大阪湾で朝に獲れたイワシを、まずは提携している運送会社のトラックで関空まで運ぶ。そして空輸で羽田空港へ移送することで、当日の昼には仲買人の手に渡すことができるのである。
この取り組みが実現したことで、東京でも飲食店経営者を中心に、大阪湾の魚の質の良さを広くPRする効果も生まれた。今では、築地からの紹介を受け、東京からテレビ局がイワシの取材に来ることもあるそうだ。

鰮巾着網漁協が実現しているのは、東京への流通だけではない。冷蔵・冷凍の設備があることから、中国や東南アジアからの大量注文にも応え、魚を輸出しているのだという。

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 “今は冷凍設備が良くなってるやろ。獲ってすぐに冷凍にかけたら、ほんまに鮮度が保てるねん。それに生のままでは、一日に販売できる量も限られてるしな。漁港は、自分らが獲った魚をどうやって売っていくかを考えていかなあかん。”

日本は海に囲まれた国。岡さんは、この国で暮らしている限り、漁業は決して衰退させてはいけないと言う。そしてこの大阪にも、24もの漁業協同組合があることを多くの人に知ってもらわなくてはいけないと考えている。

 “大阪には、食べた人から絶対においしいって認めてもらえる魚があるから、地元の人にもっと食べてもらいたいねん。
それに関空が近いから、東京でも2時間あったら魚が届けられる。九州とかの離島からイワシを運ぶより格段に早いし、コストもかからへん。海外でも、新鮮なままに届けられる国もあるしな。
我々の漁場は、日本で第2の都市といわれるところにある。消費者にも近い場所にいてる「都会の漁師」やからこそ、魚の商品価値を上げることも可能やと思うで。”

自分たちの獲る魚の味と質に誇りを持ち、ひとつひとつのアイデアを実現させながら、今日のような大規模な組織を築き上げてきた鰮巾着網漁協。
そして都会の漁師たちの挑戦は、まだまだ終わらない。大阪の漁業を盛り上げていくための次なる取り組みへと、彼らの思いは、きっと走り出していることだろう。

〈写真提供〉※1-4 大阪府鰮巾着網漁業協同組合

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大阪府鰮巾着網漁業協同組合(地蔵浜営業所)

大阪府岸和田市地蔵浜町7番1号巾着会館
最寄り駅:南海本線 蛸地蔵駅より徒歩約20分
[受付時間]9:00〜16:00 [定休日]日曜日
TEL :072-423-2518
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