南海本線「岡田浦駅」からわずか1キロメートルほどの場所にある岡田漁港は、昔ながらの港の佇まいを残しながらも、一般の人でも気軽に立ち入ることができる漁港だ。その上、漁港のPRはもちろん、泉南市の観光活性化にも一役買おうと、さまざまな事業や活動を行っている。
活動にあたっているのは、30代から40代の漁師が中心となった岡田浦漁業協同組合の青年部。
彼らの取り組みとは、どんなものなのだろう?そして彼らはどんな風に漁港のあり方を変えていこうとしているのだろう?
青年部の部長である東裕史(あずまひろし)さん(29歳)に話を伺った。
異分野から漁業の世界に飛び込んだ青年部部長
岡田浦漁協の組合員は現在62名。その中で23名ものメンバーが、青年部「明日を考える会」に在籍しており、活気があり、若い世代の活動も盛んな漁協であることが伝わってくる。
“青年部について、実は僕も設立当時のことはよく知らないんですが、不漁の時期が続く中で、これから将来のことを考えて何か対策を打っていこうということで、平成13年に発足したんやそうです。今は岡田浦漁協をPRする事業部としての活動を中心に行っています。”
そう話してくれる東さんは、漁師ではなく、競り場で競りを取り仕切る「売り子」として活躍する漁協の職員だ。岡田浦漁協の一員となったのは今から7年前。それも、求人誌に掲載されていた岡田浦漁協の求人情報を見て、漁業の世界に飛び込んだという、一風変わった経歴を持つ人物である。
“僕は高校を卒業してから、専門学校で環境管理や自然保護などの環境学を勉強したんです。それから、山梨県にある天然水の製造工場で働いてたんですが、自分のやりたいことと何か違うなぁという思いがあって。
それで地元に帰って来て見つけたのが岡田浦漁協の求人でね。漁港がどういう場所かとか、あんまり知識はなかったけど、漁業を広めるためにいろんなことをしてるんやなぁって、すごく魅力を感じたんです。”
朝市から漁業体験まで受け入れる、開かれた漁港
岡田漁港は、漁港のPRや泉南市の観光活性化にとても積極的で、一般の人が参加できる体験漁業や地引き網体験を行っている。また、漁師たちが鮮魚を販売する「日曜青空市」も毎週開催しており、早朝に出かけないと魚が売り切れてしまうほどの盛況ぶりだ。
求人情報で東さんの心を捉えたのは、漁協が一般の人たちに向けて行っているそんな取り組みの数々だったという。
“体験漁業では、実際に漁船に乗って、刺し網漁やアナゴカゴ漁を体験してもらってます。中学生や高校生の社会見学として、学校が申し込まれることがほとんどですね。
地引き網体験は4月から10月までが開催期間なんですが、週末の土・日には1日に2、3組もの団体さんが来られます。漁港の近くの砂浜で、50人以上でいっせいに仕掛けた網を引くんですけど、小さい子供でも楽しめるから、子供会や家族連れのグループにも人気ですね。あとは、企業さんが親睦会として利用されることも多いんですよ。”
どちらの体験も、漁が終わった後にはバーベキューが用意されており、和歌山や奈良、そして神戸からも、自分たちで獲った魚を食べることを楽しみに訪れる人が後を絶たないそうだ。
さらに岡田浦漁協では、漁港内で行われる「競り」の見学も受け入れている。
競り場は、新鮮な魚介をいち早く売買するため、大勢の漁師や仲買人がリヤカーをひいて走り回る、緊張感溢れる場所だ。しかしそんなことには一切ふれず、東さんは終始にこやかな表情で話してくれるのである。
日曜朝市で漁師と触れ合えることはもちろん、一般の人が気軽に漁を体験できる。さらには、東さんのような若い人材を求人情報誌で募集する。これまでの話を聞くだけでも、岡田浦漁協はかなり革新的な存在だと感じてしまう。
地元の人とのふれあいを大切に
遠方から多くの人が漁業体験や朝市などに訪れる一方、岡田浦漁協の活動は、近隣で暮らす人たちの間ではまだまだ知られていないそうだ。そんな状況を打開するためにも、まずは岡田漁港で獲れた魚のおいしさを知ってもらおうと、東さんたちは漁港を飛び出し、イベントなどで地元の人たちに向けたPR活動にも力を注いでいる。
そのひとつとして、毎年夏に岡田漁港からも近いマーブルビーチで行われる市民のイベント「サンセットフェスタ」に積極的に協力。今年はイベント会場内に屋台を設け、泉だこの唐揚げやたこ飯を販売するなど、さまざまな趣向をこらして「サンセットフェスタ」を盛り上げているそうだ。
獲れたての魚を地元の人へ。東さんたちの活動は、漁港のPRのみならず、地産地消を促進する取り組みとしても大きな役割を果たしているのではないだろうか。
地域の一員としてまちを活性化
岡田漁港のすぐそばには、自然の姿のままに残る砂浜がある。この砂浜を清掃し、群生するハマヒルガオの保全活動を中心になって行ってきたのも、岡田浦漁協の青年部である。
さらにこの活動は、東さんたちの提案によって、りんくうタウンの海沿いエリアの魅力を発信する「りんくう海道ブルーツーリズム事業」の一環として採用されることとなり、現在は、多くの市民が参加する保全活動へとその輪を広げている。
また、阪南大学や泉南市役所と協力し、泉南市を「おいしいタコが獲れるまち」として発信する取り組みも始まっているそうだ。
“この辺りでは弥生時代からタコ壺漁が行われていたみたいで、近くの戎畑(えびすばた)遺跡からは、タコ壺の破片や壺を焼いた跡が見つかっているんです。それで、阪南大学で観光を勉強している学生さんたちが、漁協に企画をもちかけてくれたんですよ。
去年は、市内の小学生たちと一緒に、遺跡から出たものと同じように、粘土でタコ壺を作るワークショップをやりました。それで作ったタコ壺を1週間ほど漁港に沈めて、どれぐらいタコが獲れるかの実験をしてね。もちろん最後には、獲れたタコを子供たちと一緒に料理して食べましたよ。漁港では今はカゴ漁でタコを穫っているんで、僕らにとってもいい経験になりましたね。”
そして、その時に作られた300個にも及ぶタコ壺は、夏に行われた「サンセットフェスタ」では、ビーチを照らす灯りとして使われるなど、今も泉南市のPRアイテムとしておおいに活躍しているそうだ。
大阪湾の魅力を もっと広めていくために
漁港に関する取り組みだけではなく、社会活動も積極的に行っている岡田浦漁協。
東さんの話を聞いていると、漁業という独特に思われがちな世界の垣根をすべて取り払い、多くの人に自分たちの姿を見てもらおうという気概が伝わってくる。
“大阪湾って、本当に獲れる魚の種類が豊富なんです。うちの漁港にも、年間を通じて100〜150種類ぐらいの魚が水揚げされていて、どの魚もほんまにおいしいんですよ。
だから、気軽に漁港やイベントに来てもらって、楽しみながら大阪の魚のことを知って、食べてもらいたい。そんな機会を自分たちで増やしていくことが、きっとこれからの漁業には大切なんと違うかなぁと思うんです。”
しかし、青年部に所属しているメンバーのほとんどは漁師だ。漁協の職員である東さんとは違い、みんながそれぞれに独立した親方として漁で生計を立てている。ましてや、休みなく漁に出ていることが多いため、PR活動への参加を呼びかけるのは、東さんにとっても辛いことだという。
“ほとんどの人が、仕事においても年齢においても僕の先輩ですしね。正直、部長とはいえ気を使うこともあります。でも、漁師さんたちは自分が動けない分、僕に任せてくれているし、そんな思いを背負って動くのが僕の仕事やと思ってるから、やりがいも感じますね。
これからも、漁師さんとは違った視点でいろんなことを提案しながら、漁港を盛り上げていきたいと思ってるんです。”
漁港の前向きな取り組みに共感し、岡田浦漁協の一員となって7年。「売り子」としての腕を磨きながら、今では青年部部長として、漁協の事業まで任される立場となった東さん。
多くの人と漁港をつなぐ若きホープとして、きっとさまざまなアイデアを温めていることだろう。そして、
そんな東さんを中心とした青年部の活躍から、今後も目が離せないのである。
岡田浦漁業協同組合
大阪府泉南市岡田りんくう南浜
最寄り駅:南海本線 岡田浦駅より徒歩約10分
[受付時間]9:00〜17:00 [定休日]水曜日・日曜日
TEL :072-484-2121
URL : http://okadaura.org