古くから魚庭(なにわ)と呼ばれる大阪湾は、食用とされる魚介類だけで230種が獲れる豊かな海だ。しかし、この大阪湾でワカメの養殖が行われていることを知る人は、そう多くないかもしれない。
ワカメは古くから日本人に馴染みの深い海藻であるが、近年はワカメ養殖業者の高齢化にともなって国内の生産量が落ち、中国や韓国から輸入されるワカメに押され気味だ。国内のワカメの全供給量34万9800トンのうち国産は5万2300トン。全体の約2割にも満たない。ちなみに全国では三陸、関西では徳島県の鳴門が名産地として知られているが、実はここ大阪湾でもワカメの養殖と、それを体験するイベントが行われていると聞き、私たちは大阪府泉南市にある岡田漁港を訪ねた。
南海本線「岡田浦駅」から歩くこと約10分。車一台がようやく通れるくらいの細い道と、趣ある瓦屋根の街並み。漁師町らしい風景を横目に歩を進めると、あっという間に漁港に辿り着いた。到着した岡田漁港は、毎週日曜に漁師たちが鮮魚を販売する「日曜青空朝市」や、地引網体験のイベントを開催するなど大阪湾の魅力の発信を積極的に行っている漁港だ。
知っているようで知らない、ワカメについて
まず、ワカメには養殖と天然の2種類がある。天然ものも、養殖ものもワカメが生まれてから枯れるまでは1年。いずれも成長したワカメの葉と根の間にある胞子葉(めかぶ)から放出される胞子で増える。天然ワカメは、胞子葉から放出された胞子が岩などに付着して発芽するが、養殖ワカメの場合は胞子を人工的に種糸(タコ糸に似た糸)に付着させて秋まで水槽で苗を育てる。10月から11月頃になると種糸から1〜2センチのワカメが発芽し、2〜3センチ以上に育ったら種糸を親縄と呼ばれるロープに差し込んで養殖を行う。種糸を植えた親縄を海に張り、数ヶ月間ワカメの成長を待つ。そして、1月中旬から4月にかけて約2mほどに成長したワカメを収穫する。
また、産地が変われば味も変わる。潮の流れがきつい産地では、葉が厚く、歯ごたえのあるワカメに育つと言われている。それに比べて、大阪湾で育つワカメは潮の流れが穏やかであることから葉が柔らかく、さっと湯にくぐらせてポン酢と共にいただくしゃぶしゃぶやお刺身に最適なのだそう。特にワカメの収穫が始まって最初に採取するワカメを「一番刈り」といい、市場では最も高値で取引されているという。
岡田浦でのワカメ養殖
この岡田漁港でワカメの養殖がスタートしたのは今から7、8年前のこと。内海で比較的穏やかな大阪湾ではあるが、冬場は和歌山市と淡路島の間に位置する紀淡海峡から吹き付ける風が非常に強く、湾内であっても白波が立ち、海が荒れる日も珍しくない。こうした冬場の時化(しけ)の対応策としてワカメの養殖が注目された。現在、全62名の組合員のうち約5名の組合員が従事し、昨年は岡田漁港だけで、300トンの収穫があった。
この日、ワカメの養殖体験を主催したのは「大阪から明るい水産業を創る会」。主催者の白川光弘(しらかわ みつひろ)さん(50︎歳)と岡田浦漁業協同組合の理事・出口勝啓(でぐち かつひら)さん(52歳)にワカメの生態や養殖についてお話を伺いながら、実際にワカメの苗付けを体験させてもらった。
岡田漁港に集まったのは小さな子連れのお母さんや水産関係者など。ほとんどの参加者がワカメの養殖は初めて。いよいよ体験するにあたり、主催者である白川さん(写真・左)からワカメの養殖についての詳しい説明があった。
ワカメの養殖は「水平延縄式養殖」といって、ブイとロープからなる縄筏(なわいかだ)の間に、ワカメの芽が生えた種糸を50〜60mの親縄に植え付け、親縄を何本も張り込む方法が主流となる。
種糸を付ける方法には2種類ある。ひとつは「巻きつけ法」といって種糸を親糸にぐるりと巻きつける方法だ。これは、親縄から何回もワカメの摘採ができるが、ワカメが密生するため種付けを行った後に間引きをして、栄養を葉に十分行き渡らせることが必要になるため、非常に手間がかかってしまう。もうひとつは「挟み込み法」と呼ばれる方法。3cmほどあるタコ糸のような種糸を親縄の撚りの間に挟み込んでいく方法だ。
「挟み込み法」では種糸を1本1本2人組みになって取り付けていくため、種糸を付ける手間はかかるものの、ワカメの成長は比較的早く、あらかじめ等間隔に種糸を植えていくことができるため、間引きの必要がない。「葉を大きく伸ばすにはこの方法が一番確実」と作業の様子を見せてくれた漁師さんたちも太鼓判を押す。
大阪から明るい水産業を創る会
https://www.facebook.com/明るい水産業を創る会-326846617448377/
[お問い合わせ先]wakame02@gmail.com
岡田浦漁業協同組合
大阪府泉南市岡田りんくう南浜
最寄り駅:南海本線 岡田浦駅より徒歩約10分
[受付時間]9:00〜17:00 [定休日]水曜日・日曜日
TEL :072-484-2121
URL : http://okadaura.org