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南海沿線にある漁港および周辺地域の魅力を伝えるウェブマガジン

プロの仕事の緊張感が伝わる
佐野漁港の競り風景 (後編)

2015.09.09

最寄り駅:南海本線 泉佐野駅

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(→前編はこちら)

佐野漁港では漁のある日には毎日、泉佐野漁協による競りが行われている。朝5時からの漁で水揚げされた魚介が午後には仲買人の手に渡り、新鮮なその日のうちに鮮魚店に届けられる「昼網」の競りである。
前編では、ピンと張りつめた空気の中で行われる競りの様子や、競りを取り仕切る「売り子」を職業とする金野将明(かねの まさあき)さん(37歳)を紹介した。

その日の魚の値段を大きく左右する「売り子」という仕事にはどんな苦労があるのだろう?引き続き、金野さんに話を伺いながら、競りの一日を追いかけてみよう。

怒鳴られて、叱られながらプロになる

「売り子」には、競り全体を見渡す冷静さ、その日の相場をつかみ取る判断力、競りをスムーズに進行するリズム感などが求められる。これらは手取り足取り教えてもらえるものではなく、自分で身に付けていくことでしか一人前には近づけないそうだ。
また、売り子の仕事の基本となる、仲買人さんの指の合図を読み取れるようになるまでにも相当な時間がかかるという。

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 “合図の出し方には仲買人さんそれぞれのクセがあるんです。他の仲買人さんに見られないようにこっそりと希望の買い値を出す人もいるから、最初はそれに慣れるまでが大変でしたね。”

魚を高値で仲買人に落としてもらうためのコツもある。競りに出す魚が多い時はスピード良く進行し、仲買人をどんどんその気にさせていく。逆に魚が少ない時にはゆっくりと進行し、値が上がるのを待つのだという。
アジやイワシなど、同じ種類の魚が大漁に揚がった時には、同じ種類のものを立て続けに競りにかけるのではなく、途中に違う種類のものを差し込む。そうして状況をリセットすることで、競りの値崩れを防ぐことができるのだという。

 “リズム良く、魚がいい値段で売れた時は晴れやかな気分になりますね。漁師さんから「今日の競りはよかったなぁ。ありがとう」と声をかけてもらえた時は本当にうれしいですよ。”

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新米の頃は仲買人の合図を見落としてしまい、睨まれたり、怒鳴られたりすることがしょっちゅうだったという金野さん。逆に魚を安い値段で競り落としてしまい、漁師に叱られたこともあったそうだ。
そんな苦い失敗や経験を積み重ねながら、金野さんは、佐野漁港の競り場にはなくてはならない存在へと成長していったのだろう。

泉佐野の魚がおいしい理由とは?

泉佐野の魚は、鮮度はもちろんのこと、質もとても良いのだと金野さんは話す。それは、漁師たちの魚の手入れ方法がとても丁寧だからだという。

 “海の中で生きる魚介は、人間の手の体温にふれるだけでもやけどを起こすと言われています。だから、うちの漁協の漁師さんたちは、網から揚がった魚を極力素手でふれることを避けるし、日光にも当てないように気を配っています。
それに、漁には大量の氷を持って行き、アジやイワシなど、生命力の弱い小さな魚は獲ったその場で氷締めにします。生きたまま港に持ち帰る魚も、魚の動きが鈍くなるように水槽内の海水の温度を氷で下げるんですよ。水槽の中で泳がせてしまうと、あっという間に身が痩せてしまいますから。”

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船に漁の網が揚がると、そこからはすべてが時間勝負。もたもたしているとどんどん魚の鮮度が下がって行くので、漁師は休む暇もないことだろう。

 “網で傷ついてしまった魚は競りに出さないことも鉄則です。そんな魚を売ってしまったら、これまでに培ってきた信用をあっという間に失ってしまいますからね。”

漁師の仕事は魚を獲ることだけではない。よりおいしい魚を届けるために、消費者の私たちには見えないさまざまな努力が行われていることを、金野さんは真っ直ぐな目をして私たちに教えてくれた。

漁師さんと家族の絆を感じる光景

漁船が港に戻ってから競りが終わるまで。忙しくあっという間に1日が終わって行く様子を見ながら気付いたことがある。それは漁師と家族との深い絆だ。

船が漁から帰り、魚の仕分けが始まると、気付けばどの船にも漁師の奥さんの姿がある。奥さんたちは仕分けをてきぱきと手伝い、たくさんの魚が入った重たい箱をいともせずに競り場へと運んで行く。
この日は学校が休みだということで、子供たちの姿も多かった。彼らもまた元気いっぱいに氷の入ったバケツなどを運び、当たり前のように仕事を手伝っているのだ。

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競りが終わると、空になった競りの箱を丁寧に洗って片付けるのも奥さんたちの仕事だ。彼女たちは大きな洗い場で楽しそうに世間話をしながら、ひとつ、またひとつと箱を片付けていく。

一日の最後に漁師たちが船の掃除を始める頃には、奥さんや子供たちが船の傍らに寄り添って、様子をにこやかに見守っている。その表情からは今日も無事に漁が終わったことへの安堵感が伝わってくる。

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ある漁師が「漁師の家は嫁で持ってるねんで」と教えてくれた。漁師より朝早く起き、お弁当をこしらえる。そして港での仕事も手伝い、仕事が終わった後には、家で漁師がゆっくりと休める環境を整える。
優しく、そしてたくましく漁師を支えるご家族の姿は、なぜかとても懐かしく、私たちが忘れかけている家族のあり方を改めて教えてくれているかのようだった。

 

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泉佐野漁業協同組合

大阪府泉佐野市2丁目5187番101
最寄り駅:南海本線 泉佐野駅より徒歩約15分
TEL :072-469-2340 [競り開始時間]14:00〜15:15 [定休日]水曜日・日曜日
※営業日でも、天候等により、競りが行われない場合あり