南海本線「箱作駅」周辺は、和歌山と泉佐野をつなぐ浜街道(孝子越(きょうしごえ)街道)を中心に古い家並みが続き、昔ながらの漁村の佇まいを残したエリアだ。
駅から北に向かって10分ほど歩くと、目の前に広がるのは青く澄んだ大阪湾の眺望。そして防波堤に囲まれた内海にあるのが、穏やかな波間にいくつもの漁船が並ぶ下荘(しもしょう)漁港である。
先代からの漁法を個々に受け継いで
この漁港を拠点とする下荘漁協の組合員はおよそ50名。生計を立てている漁法は、底引き網漁、刺し網漁、小型定置網漁、流し網漁など、同じ漁協に属しているにも関わらず、漁師によってそれぞれ異なるのだという。
“うちの組合は代々、漁師の長男が親父の後を継いでる家が多いねん。みんな船や仕掛けもそのまま受け継ぐからいろんな漁法があるんやね。”
そう話してくれるのは、下荘漁協組合長の西澤勝(にしざわまさる)さん(61歳)。
大阪湾の漁港には、メインの漁法が決まっていたり、船団をつくって漁を行う漁協が多い。そんな中、ここには、それぞれの漁法を尊重し合いながら共同体として成り立つ、昔ながらの漁村の姿が今もなお残っているのだ。
魚の地産地消を広げたい
しかし、他の漁協と同様に漁獲高は年々低下。さらに景気の悪さが追い打ちをかけ、魚の売値も上がらないことに漁師たちは危機感を抱いているという。
自分たちが獲った魚をPRしようと、地元での町おこしイベントなどに積極的に参加。漁港にも気軽に足を運んでもらいたいという思いから、通常は仲買人を相手に行う競りを、一般の人向けの体験イベントとして定期的に行っているが、なかなか期待通りにはいかないそうだ。
“イベントに参加しても、地元のお客さんが魚を買いに来てくれることが少ないねん。競り体験も、毎回常連で来てくれるお客さんはおるけど、新しいお客さんは増えへんなぁ。
大阪湾で獲れる魚はおいしいし、イベントや漁港で買ってもらったら、一般の市場で買うより2割ぐらいはお得やと思うわ。そんなことが口コミとかで地元の人に広がってくれたらええねんけどな。”
港町とはいえど、地元の人たちさえ手軽なスーパーなどで魚を買う時代。地産地消を広げていきたいという漁師たちの思いは、ここでも多くの人に届かずにいるのである。
ビーチを活用して漁業PRのチャンスに
しかし、西澤さんたちは、そんな状況にただ腕をこまねいてきた訳ではない。
下荘漁協では、大阪府から委託を受け、漁港に隣接する「ぴちぴちビーチ(箱作海水浴場)」の運営管理も行っており、このビーチを新たな事業の場として活用することに。漁業をレジャーとして楽しんでもらえる観光スポットを作ろうと、「地引き網体験漁業」と「潮干狩り」を5年前からスタートしたのだ。
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“うちには漁港以外にもビーチという環境があるねんから、これをチャンスに生かさんともったいない。昔みたいにみんなで地引き網を引いたら楽しいし、大阪湾でたくさんのおいしい魚が獲れることも知ってもらえるしね。
それに、海は危険やというイメージから海水浴のお客さんが減ってきてるけど、潮干狩りやったら小さな子供でも安心やし、また海に遊びに来てくれる人も増えるやろうと思ってな。”
沖に仕掛けた大きな網を大人数で砂浜へ引き揚げる地引き網漁は、江戸時代から昭和の初期まで大阪湾で行われてきた伝統漁法のひとつ。昔は子供からお年寄りまで、村を挙げて全員で網を引いたそうで、西澤さんはこの漁体験を通じて魚に触れ、人々の絆を感じることで、多くの人に漁村の文化を知ってもらいたいと願っている。
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大阪湾の幸を豪快に味わう貴重体験
「地引き網体験漁業」が行われるのは、毎年4月から10月にかけて。漁では、アジやマダイ、アオリイカ、タコなど、20種類以上もの魚介が揚がり、漁が終わった後には、これらを参加者全員で網焼きにして味わうのだという。
子供たちは、漁師から教わるタコの内臓の取り方などに興味津々。魚のうろこを一切取らず、丸ままの状態で網焼きにする豪快な漁師料理のおいしさに、大人たちからも歓声があがる。
そんな貴重な体験が楽しめることから、この「地引き網漁体験」は年を重ねるごとに参加希望者が増え、漁協の事業としての大きな柱になりつつあるそうだ。
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また、春から初夏にかけてオープンする「潮干狩り」も、年々順調に来客数が増加。今では、漁師の奥さんたちがスタッフとして運営を手伝うなど、新たな雇用を生むことにもつながったのである。
若い漁師たちに高まる期待
西澤さんが最初にも話してくれたが、下荘漁協では親の後を継いで漁師になる人が多い。そのため、組合員の人数は昔からほとんど減少することなく、現在、在籍している組合員のなんと4割もが20代〜30代。多くの漁協が頭を抱える後継者不足の問題には縁遠い、若さと未来への希望があふれる漁協なのだ。
“若い子らはみんな一人前の漁師になることに必死やから、今はこれから漁業をどうしていくかまでは考えられへんやろな。せやけど、僕らがそうやったように、時期が来て組合を背負うようになった時、あの子らなりの発想で下荘を盛り上げていってくれると思うわ。
僕らかてまだまだ元気やから、その時までは現役でがんばろうと思ってるねん。”
若い漁師たちには、代々漁を受け継いできたように、西澤さんたちのチャレンジ精神も継承されていくことだろう。
そして、また新たな取り組みによって、漁港やビーチがさらに活気づいていくことを楽しみに待ちたいと思うのである。
〈写真提供〉※1-3 下荘漁業協同組合
下荘漁業協同組合
大阪府阪南市箱作3341
最寄り駅:南海本線 箱作駅より徒歩約10分
TEL : 072-476-0473
072-476-3319(潮干狩り・海水浴期間中)
[受付時間]9:00〜17:00(月〜金曜日)
http://www.geocities.jp/pitipiti_siohigari/hp2/top.html