[Go-Phish 武田栄さん]
南海本線の「尾崎駅」から「みさき公園駅」に続く海沿いは、昔ながらの自然の風景や漁村の趣が残る、大阪湾の沿岸の中でも希少なエリアだ。
淡路島を望みながら青く広がる海。そして背後をなだらかな山々に囲まれ、人々がのんびりと暮らしを営んでいるこの地域は、何度訪れても「ここは本当に大阪なのだろうか?」と思わずにはいられないほど、都会とはまったく違った、穏やかで心地良い雰囲気に包まれているのである。
武田栄(たけださかえ)さん(48歳)は、そんな阪南の風土をこよなく愛するプロアングラー。毎日のように近くの海に釣りに出かけ、その魅力をブログなどで発信し続けている武田さんに、釣り人の目から見た大阪湾の姿について話を伺った。
都会の中にある田舎に魅せられて
武田さんは、釣り人たちの間では有名な、海でのルアーフィッシングのエキスパート。釣り専門の雑誌やテレビ番組の取材で全国各地の海に出かけては、見事な釣りのテクニックを披露し、羨望の眼差しを集めている人物だ。
また、自らも『Go-Phish』というブランドを立ち上げ、ルアーや釣り竿をはじめ、さまざまなフィッシングギアを開発・販売。スタイリッシュなうえに、釣果を高めるための創意工夫が凝らされた製品の数々は、日本のみならず、世界の釣りマニアにも愛用されている。
さらに武田さんは、プロドラマーとしての顔も持っており、現在も、釣りに関する仕事のかたわら、各地のライブハウスなどで活躍。そして音楽活動のために東京などで長年暮らし、阪南市に移り住んだのは4年前のことだという。
“これまで、いろんな所で暮らしながらも、「魚釣りができて、水と空気がおいしい所に住めたらいいなぁ」って、ずっと思ってたんです。でも、今までやってきた仕事があるし、僕はもともと大阪生まれやから、九州や瀬戸内とかで暮らすことは想像し難いしね。そう考えていくと、阪南市はすごく理想に近いうえに、仕事とのバランスもいい場所やなぁと思って。
東京なんか、2時間かけて移動してもまだ都会の中でしょ。ここは、大阪市内から1時間半ほどの場所やのに、どんどん田舎に風景が変わって、人もなにもかもが違ってくる。なかなか他にはない、すごい場所ですよ。”
南大阪湾で「日常の釣り」を楽しむ
武田さんは、たとえどんなに寒い冬の季節でも、時間が許す限り、ほぼ毎晩のように地元で釣りを楽しんでいるのだという。
“僕は「日常の釣り」に興味があるんです。遠くまで出かけたり、船に乗ったりして釣りをするのも楽しいけど、それはイベントみたいなもの。そうじゃなくて、ふらっと身軽な格好で出かけて、今日はよく釣れたなぁ、明日はどうやろ?みたいな釣りをしていきたいと思っててね。ここにはすぐ近くに、堤防も浜も、小磯もあって、それができる場所なんですよ。”
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そして、そんな「日常の釣り」で知り合った仲間とともに、釣り人として海を守っていこうと『南大阪湾を愛する釣り人の会』を結成。「南大阪湾」とは聞き慣れない言葉だが、そこにも武田さんたちの特別な思い入れがある。
“大阪湾って言うと、南港や北港の商業的な海をイメージする人が多いでしょ。こんなにのどかで素晴らしい風景が広がってるのに、大阪湾でひとくくりにされることには抵抗があるからね。それで僕らは、この辺りの海のことを「南大阪湾」って呼んでるんです。”
フォーラムから始まった 漁師との交流
阪南市で暮らし始めた当初、漁港周辺へ釣りには出かけるものの、漁師との交流は全くなかったという武田さん。
“釣り人は、漁師さんの邪魔をしに行ってるという後ろめたさがあるんですね。せやから、見つかったら怒られるんちゃうかと思って、漁師さんが来はったら隠れたりしてたんですよ。”
そんな武田さんの意識を変えるきっかけになったのは、阪南市に拠点を置く、尾崎・西鳥取・下荘の3漁協が中心となって、2013年から3年間にわたって開催した「釣りと漁村文化フォーラム」への参加。
このフォーラムは、漁村の人と市民をつなぎ、海の環境について一緒に考えていくことをテーマにした勉強会で、武田さんはこの場所で地元の漁師に出会い、会話をする機会が急速に増えていったそうだ。
“僕、フォーラムで最初に漁師さんに会った時、「釣り人のこと、嫌いですか?」ってストレートに聞いてみたんですよ。そしたら「そんなことないで」って言ってくれて、一変して距離が縮まった感じがしたんです。
漁の話とか、海の現状の話とか、そんな話も教えてもらえて、このイベントを通して漁師さんとお話ができるようになって本当によかったなと思うし、お互いを知って歩み寄る事の大切さを痛感しましたね。”
そして気がつけば、武田さんはフォーラムの司会者として、漁師と釣り人をつなぐような存在になっていったのである。
〈写真提供〉※1 Go-Phish 武田栄
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